海賊！冒険！ＳＦ！。この３つが並んでいて、読まないわけがあろうか（いやない）。
いつものように、本屋の児童文学のコーナーをぶらついていた私の目に入ったのは、平棚に積まれた「少女海賊ユーリ」の１巻「なぞの時光石」でした。何より「海賊」の文字が目をひきます。そして。今風のデザインで、そのまま漫画やアニメにしてもおかしくないようなユーリが、ペンダントを掲げている表紙です。これが、アニメ風のイラストだったら手に取らなかったでしょうが、デザインが今風にも関らず、イラストはきっちりと挿し絵としてのリアルさを持っていたので手に取ることに。
そして折り返しの内容紹介を引用すると「少女がたすけをよんだとき、海賊船ユーラスティア号があらわれた…。はるかな時をこえてたたかう少女海賊ユーリの愛とぼうけんの旅が、いま、はじまる！」と。冒険物です。これは、もう、おもしろそうです（笑）。
そして、ページの最初には海賊船ユーラスティア号の見取り図が。３本マストの立派な帆船です。「輪切り図鑑 大帆船（岩波書店）」等を見た事のある方ならわかると思いますが、内部考証もしっかりしていて、更に、大航海時代の船に比べて快適そうです（笑）。医務室が甲板直下と居心地の良さそうな辺りにあるだけでも救いがあります（笑）。この辺で、もう、内容の確かさは保証されたも同然です。
ただ、本文の文字の大きさが意外に大きかったのにはちょっと躊躇してしまいましたが。児童文学と言っても、ターゲットによって文字サイズが大きく異なります。これは、小学校中・高学年向けですから少し大きめだったようです。大人が見ると、少しびびりますが、内容的に本文の量に対する物語の薄さというのは感じなかったので、気にするほどのことではないでしょう。
ストーリーは。オーデニア国に滅ぼされたラドニア島領主の娘ノエルがユーラスティア号船長ユーリに助けられ、自らの持つザリア石の指輪の運命の下…という話と、謎の海賊船長ユーリの持つ時光石をめぐる同じく謎の黒マントの男との戦い、という２段構えで進むと思われます。この２つは、密接に絡み合い進んで行くのですが、これが冒険とＳＦという２つの要素をうまく絡めた話となります。詳しくはネタバレになるのでここでは語りませんが。
いわゆる冒険物に付き物の善と悪との戦い。しかしながら、単純な二元論で割り切らずに、善悪の中の正と負の側面をも描き出しています。そして、登場人物たちの生き方。かなり深い過去と現在の生活とが、短い紹介の中にも伺われます。これからの物語が楽しみなことの一つです。そしてＳＦ性。ハードＳＦのような小難しいものではありません。斬新という感じも受けませんでした。しかし、この設定によって物語の鍵となる部分に深みが加わっています。
文章描写の隙のなさといい、イラストの挿し絵としての完成度の高さといい、久しぶりに当りを引いた気分が味わえます。
これからの話がバランス的に海洋冒険物となるのかファンタジー的な方向になるのかは、今後の続刊を待つしかないのですが、子供向け小説の一言ですますにはもったいない輝きを持った作品といえるでしょう。
まあ、小難しい解説はいりません。気軽に読めるエンタテイメントとしてお薦めします。軽すぎるジュニア小説に比べれば、よっぽど読み応えはありますよ。
(2001.10.08)