さて、５巻です。今回もインプレッションは紹介の方にあるので本編に行きます（お約束の一行）。
最初は…「海賊みならいの（ある日の）一日」です（笑）。正しい子供の海賊修行って感じでいいですねー。本格的な海洋小説は「ホーンブロワー・シリーズ（ハヤカワ文庫）」をはじめとして英国海軍の帆船を描いた物が多く、船乗りの生活の過酷さを思い知らされます。それに比べると、ユーラスティア号で勉強出来るノエルたちは非常に幸せかと。もっとも、大人たち正規の海賊は、夜昼の区別なく船を動かすために働いているはずで、そりゃあもう大変なはずですが。それを感じさせないあたりが、ユーラスティア号の船員達の「強さ」なのでしょう。
さて、本編です。掃除中のノエルとレニーから。呪いのゆうれい船の話が出て来ます。「恋人を殺された海賊が復讐を誓って死んだ後も海をさまよっている」とは、なかなか穏やかな話ではないです。
そして、カラザンの部屋ではノエルがエレノア号の航海日誌を発見。２００年も前の日誌にユーリたちがやって来た時のことが書かれています。
ユーリとゴアは時光石を壊す実験の最中。時光石が爆発しそうになるとは…それこそが壊れることかと思うのですが、要するに内在するエネルギー量が多すぎて安全に破壊出来ないのでしょう。ゆっくりと穏やかに崩壊させられればよいのでしょうが。ゴアは三種類の時光石を集めて安定化させることによって破壊が出来るのではないかと提案。アンドロイドにしては知恵の働く男です。もっとも、ユーリは三種の時光石が集まることによって、未来世界で起こった崩壊が再現されることを危惧していますが。……結局、爆発するの？という気もしますが。あれは黒マントが悪いんでしたか？。安定させることが難しい分、外的要因に弱いのであれば、やはり恐いものでしょう。
さて。このエネルギーは厄介なことに時間と空間に干渉するようで、今回も黒い船が現れてユーラスティア号を突き抜けていくという不思議なことが。空間が微妙にずれていて、完全な接触はしなかったようです。ＳＦ的には空間（というか物質）が重なったら爆発という可能性もあるのですが、一時的に一部の空間が繋がったけのようです。ただ、しばらくは空間の位相が近かったので、相手の空間のものが「見えていた」ということでしょうか。
まあ、難しいことはともかくとして。この衝撃でノエルが海に落ち、助けに飛び込んだレニーと共に行方不明。お約束通り、黒い船の方の空間に引きずられてしまいます。
黒い船はエレノア号。例の日誌の船です。むろん、大昔にタイムスリップ。おまけに、船は船長代理のゴレスに仕切られていて、いきなり売り物扱いです。ピンチ。
そして、船倉にはユーリとゴアの姿も。ノエルが読んだ日誌の直後のようです。ユーリは自分が世界を滅ぼしたということに対するショックで生ける屍状態です。さて、これからどうなるのか？。
一方の現代？では、海をあさる海賊はともかくとして。ユーリとゴアはノエルたちが消えた時間も突き止めています。しかし、ここで時間移動のパラドックスが。同じ時間に同じ人間が存在してはいけない、という奴です。これ、個人的には時間のパラメータによって「全く同じ人間」ではないので別にいいような気がしますが、ＳＦ世界では常識のようになっている事柄の一つです。互いに相手を認識しなければいい、という解決方法も色々な作品で使われていることですが…科学的というより、世界の律に関する話ですから、どちらかというとファンタジー的なギミックのような気もします。が、そんなことより、小学校中学年向けの作品でこれだけのＳＦネタを詰め込んできたところが素晴らしいかと（笑）。子供向けのＳＦ入門書としたら非常に面白いと思います。
で、過去では。ノエルとレニーはゴレスにこき使われています。わざわざ鞭を持って監視している辺り、そうとう暇な上にサディストな奴のようです。それでいて、ユーリの方はゴアのせいで手を出せないというのですから（笑）。いや、笑い事ではないのですが。
そして、「恋人を殺された」船長も登場。こちらも生ける屍です。なんと、奴隷商人に使われるのが嫌で仕事を断ったら無実の罪で投獄、脱走して海にいる間に恋人を人買いに売り飛ばされ死なれてしまうとは。そこまでする相手も相手ですが、いつの時代も権力を持っているものというのはそんなものです。そして、ドラン船長は船を黒く塗って関係者をに復讐し、そして全てを終えて廃人になったと。復讐によって気は晴れたかもしれませんが、後には何も残りませんから。仕方のないことかもしれません。
生きる気力をなくしたユーリと生きる気力をなくした船長の出会い。船長は船倉にうずくまるユーリの姿に恋人の影を重ねます。死の匂いと共に。奴隷船とともに海の底に眠る恋人の。そして、時光石を餌に戦いを挑みます。それによって彼女が生き返ることになるのを見て取って。ドラン船長は、船長たる海の男です。
そして、船長が本気を出していなかったとはいえ、彼の剣をはねのけて石を取り戻します。そして、説教していた船長も、その言葉が自分に跳ね返ってくるおかげで生きることを決意することに。「どんな過去も未来も、すべてはあの遠い波のかなただ」このセリフはドラン船長の言葉だったのですなぁ…。
そして、二人は過去を背負って未来へ生きていくことを決意します。
そして、お約束通りに一人で働いていたレニーがゴレスに見つかって大騒ぎ。船長がやってきて問いつめられれば、逆ギレして反乱です（笑）。迷信深い船員に悪霊を持ち出して反乱を呼びかけ、銃を使って船長を倒し（単発式のフリントロックのようですが、この時代ではまだ知られていない最新式のもののようです）、しばらく食事もしていなかったユーリを気絶させ…。たものの、普段の行いの悪さから他の海賊達は誰も味方してくれません（笑）。実際に、歴史上の海賊においてもクルーが認めないと船長にはなれなかったようで、封建社会に於いて最も進んだ民主的な集団だったのです（笑）。
そして、ユーリが気絶しているその時に時空を破って現れるユーラスティア号。一番の見せ場です。そこに一人乗り込んでくるユーリ。青いマントを頭からすっぽり被っているということで、目だけを出したその姿は挿絵によると中東の女の人のようです。映画ならクライマックスシーン。最もかっこいいところです。悪霊呼ばわりですけど（笑）。おかげで、ゴランなど海へ飛び込んで逃げる始末。そして、ユーリは船長の傷を見ると、「心からの感謝と愛を捧げます」…告白ですな（笑）。そして、ノエルとレニーを伴って帰還していきました。
そして、いつものユーラスティア号。ことの顛末を正確に分かっているのはユーリとゴア、そして秘密を知るノエルくらいなものです。レニーは全然分かってないようです（笑）。
そして、ドラン船長に会ったユーリは、決意を新たにレッドストーンを作ることに…。
ノエルはカラザンからユーリに渡すようにと航海日誌を受け取りますが。その後、ユーリが海賊となり、ユーラスティア号の船長になるまでのことも記されているようです。そして、船長の最後の言葉は、あの時ノエルたちを助けに現れたユーリに「心からの感謝と−愛を」…。
ユーリにはカイルという恋人？がいることになっていますが、ドラン船長は命の恩人であり、この時代での保護者であり…やっぱり恋心がなかったと言えば嘘になるのではないかと。エレノアのことがあってその想いを表に出すことがなかったのか。時光石と未来世界の悔恨があって、そういう方向に行かなかったのか。あるいは、二人とも意識しつつなんとなくそのままの関係を保っていたのか。
一つは、時を止めたままのユーリと年老いていくドラン、という図式もあったのかもしれません。迷信深い船員達がユーリについてどうこういうことがあったかどうかはわかりませんが、船長として認められる程になっているのですから、その点についてはさほどの問題ではなかったのかもしれませんが。
今回の物語は児童文学という枠、対象年齢という枠に表現を縛られている部分が多いかと思います。エレノアの末路にしてもそうですし、ユーリとドランのその後の関係（航海日誌からすると穿ちすぎな気もしますが。）にしてもそう。「書けない部分」というのがかなりあるかと。逆に、そういった「行間」が多い作品だからこそ、想像する余裕があって面白いのかもしれません。その後のエレノア号の航海。１００年間の冒険と海賊たちのその後について想像するだけでも楽しいものです。児童文学とは、本来そういったものなのかもしれません。
そこへいくと、最近のライトノベルは親切ですな（笑）。
個人的な見立てとしては。ドラン船長はノエルたちを助けに来たのがユーリだということに気付いているようでしたし。それゆえ、ユーリの告白を先に受け取ってしまっていると。その思いを最後に返しているわけですが。その間に色々あったと思った方が、なんとなく楽しそうだと（笑）。
そして、未来から、過去、そして現在へと話は繋がり、最大の謎であった「一介の少女がいかにして海賊船の船長になったか」ということも明かされました。そして、これまでずっと物語の鍵として主に黒マント側からアプローチされてきたレッドストーンに彼女自身から携わることにした決意。
ここから新たなる戦いが始まるわけです。
今回、初めて次回作の予告がカバー折り返しに付いていませんでした。ここまでが初期構想の部分なのかもしれません。ユーラスティア号とユーリの冒険、次なる一手は如何に。続刊が楽しみであります。
(2003.07.04)