もし、これを読んでいる中高生の諸君が居たら、ぜひとも、修学旅行（特に京都奈良の仏閣巡りをする人たち。海外旅行組とかは論外）の前にはこの作品を読んでもらいたい。無味乾燥で厳粛なお寺が、現出した英雄のテーマパークに早変わりだ（一部誇張あり）。
さて。
この作品について述べるのには、コミックス１巻に素晴らしいコピーがあるので、少し引用させてもらいたい（改行位置が一部変わっています）。
仏像
それは宇宙が生んだ スーパーヒーロー!!
これは 悪を蹴散らし 人間を救うため
さまざまな姿をもって 現れた仏像たちの
慈悲と友情の 物語である。
（第１話トビラより）
これを読んで燃えない奴がいるだろうか。全くもって、この作品がたった３巻で終わっていること自体信じられないものである。
ストーリーは。
千手観音のセンジュが、人として生まれたミロク（弥勒菩薩）を守り、悟りへと導くために大日如来に遣わされて地上に降りる。そして、千手観音像に宿り、仲間たちと共に仏敵と戦い、未来のミロクを守りながら旅をするロード・ストーリーである。
とまあ、いつも通り、肝心な所を抜かして説明させていただきましたが。
ここで、まず、この作品を宗教的観念で押しているわけではないことをお断りしておきます。
逆に、そういった宗教観にこだわる人は、こういった作品は読まないほうがいいでしょう。楽しい作品を読んで文句を言うのは体に悪いですよ。
宗教にこだわりがある人向け「トップへ帰りましょう」
さて、お残りいただけた方。
この作品を読んで、仏の世界にひたろうではありませんか（笑）。宗教と考えずにファンタジーの世界観の一つと考えれば特別な物ではありません。
大体、エンタテイメントとして日本でも確立したヒロイックファンタジーなんて、基本的に神話の無い国による神話の創造であるわけで。結局、多くのファンタジー作品が神話の世界をベースにしている訳です。ギリシャ神話や北欧神話は言うに及ばす、インド神話、中国なら中国神話だけで無く仙人の活躍する道教系なんかもありますし、日本でも日本神話をベースにしたファンタジーは結構あります。
にも関らず、何故か日本で仏教をベースにした物は少ないと言うか。仏教が出て来る物は、神話系というよりも、お坊さんがお経を唱えるという「魔法使い」主役系の作品がメインなわけで。例えば、有名な役小角のような能力者ですら人間です。
仏陀のような話は、どちらかというとエンタテイメントではなく、宗教的な物ばかりという印象があります（無いわけではなく、あくまで「比率とイメージの問題」です。例えば、高橋留美子先生の短編「がんばり末世」なんかも弥勒菩薩が衆生を救おうとする話だったと思いましたし）。
で、前置きが長くなりましたが、仏ゾーンです。
週間少年ジャンプ掲載作品ですから、正義と友情の話です。
でも、そういったものをストレートに出す作品は、人によっては「嘘臭い」となってしまいます。フィクションなんだから、嘘でも、そういう話を読みたいじゃないか、と思う人も多いと思いますが、そういった作品の中でも、この作品は切り口が違います。
なんと言っても、ヒーローは仏様ですから（笑）。成長する要素はあるし、人間臭く描かれていますが、慈悲と慈愛の心を持っていることが当然と感じられる訳です。
しかも、大体、お寺に行ったことのないという日本人はほとんど居ないと思いますから（よっぽど自分の宗教に固まった人でない限り）、その感覚は割と自然に感じられると思いますし。
何より、この作品には優しさがあります。敵は出て来る。戦闘シーンあり。売りのアーマー「天衣」もある。でも、全体を流れるのは優しさであり、善と悪、勝つか負けるか、という単純な方向には話は行きません。
まあ、そこいらが、仏教テイストを取り入れている訳ですが、「あくまで、エンタテイメントに徹している作品」なので、読んでいて、説教くさく感じることはありません（まあ、感じる人も中には居るかもしれませんが）
だからこそ、この作品を読んで見てもらいたいと思う訳です。面白い漫画を読んで、尚且つ、退屈だと思っていた旅行の時のお寺まわりが楽しくなったら。そんないいことはないんじゃないかと思うんです。
連載第１話のタイトル「仏像を見たらヒーローと思え!!」。仏教なんて全然信じていなくても、「ウルトラマン」や「仮面ライダー」の様に仏像を見ることができたら、なんか楽しいですよね（そういえば、キカイダー０１は仁王像の中から出て来ましたが）。というか、既に私はその状態になっちゃってます。この作品、天衣の操演さえ可能なら（別にＣＧ合成でもいいですけど）、是非、実写で見てみたいです（ミツルギみたいなダイナメーションという手もあるか…面倒で誰もやりたがらないだろうなぁ）。予算さえきちんとかけられれば、日本テレビ系で放映された西遊記（主演：夏目雅子さん）みたいなヒット作品になるんじゃないかと思うのですが。
ちなみに、この作品の現在のラストは、前出の西遊記の最終回（２の最終回も含め）で天竺にたどり着くことが無かったこととダブってしまいます。寂しい反面、想像する余地は無限に残っているという…。
最後にちょっと弱点を挙げるなら。やはり、ヒロインが人間でも、ヒーローたちが仏様、と言うのが、少しジャンプの読者層である子供たちから見ると浮いていたのかもしれません。その辺は、次の「シャーマンキング」で逆襲とあいなる訳ですが…。
(2001.04.26)