もともと、ジャンプは買っていないので、たぶん歯医者で読んで「単行本になったら買おう」と思っていたんだと思います。でも、買って正解でしたね。ちなみに、仏ゾーンの次回作にあたるシャーマンキングも、現在のジャンプ連載作品の中では一番好きな作品です。
さて、この作品の魅力といったら、仏教をベースにしたキャラクターの相関関係と、おもしろさにあるでしょう。
本来、主人公にしてヒロインの「サチ」通称サッちゃんの旅話である筈だった本作品。魅力的なパーティーの旅が組めるように考えられていたことは、ラストカットを見てもわかります。
強力な仏様（主に観音様のようです）がピンチに降り立って主人公たちを助ける。死んでも仏界に戻った後に新たな体に降臨することによって再び活動出来る、という設定も合わせて、「ジャンプ」作品の王道が無理なく展開出来た筈。残念な限りです。
でもって強力なキャラクター群。
主人公の「サッちゃん」は両親の居ない身寄りですが、西岸寺の和尚さんに育てられた弥勒菩薩の生まれ変わり。最初は、その境遇から結構やさぐれていましたが、根がいい子なのはまるわかりで、旅の中でどう変わって行くのか（悟って行くのか）が見てみたかったです。
そして、もう一人の主人公である「千手観音のセンジュ」。すべての衆生を救う、というコンセプトの元、殺伐とした戦闘シーンに優しさを表現する少年。彼もまた、旅の中で、千手観音としての成長をして行く筈だったのでしょう。天然な所も、性格が出ていると言うか。成長した彼の美形っぷりは見ることができないのでしょうか。
また、彼の「千手アーマー」は見た目の美しさでは群を抜いているので、いつか、何らかの形で見て見たい物の一つであります。
対照的なのは「地蔵菩薩のジゾウ」。いわゆる、クールなライバルって奴でしょうが、そのお地蔵様な外観と斜に構えた性格のギャップ、なんだかんだ言って友情に熱い所が結構好きです。釈迦入滅後、弥勒菩薩降臨までの間、衆生を導く役目を背負ってきただけあって、世慣れている感じが頼りになるアニキ的です。上に向かって揺れている布が気になりますが、まるで仮面ライダーＶ３のイメージイラスト（肩２ヶ所からマフラーが立ち上がっている）を思わせます。おおっ、ヒーロー！
で、更にアニキな「馬頭観音のバトウ」。洋モノミュージシャンそのものの漢。ジゾウくんが「斜に構えているわりに真面目」なのに対して、こちらは「威圧的なのに優しい」という。上からクールに見ているわりに一番最初に走り出す…ような感じっすかねぇ。登場が遅かったので…。
「狛犬のコマ」。作品中では見せ場が無かったのが残念としか。
そして、「阿修羅のアシュラ」と八部衆。連載終了のため、早過ぎる改心になったのでしょうが、センジュの救いを体現するキャラとして、十二分に活躍していました。もう少し続いていれば、彼の人気は急上昇したと思われるだけに…残念。
そして、「恐山アンナ」。武井先生の作品としては「ITAKOのANNA」に続く２作目でしょうか？続く、シャーマンキングにも登場（もちろん別人ですが）する作者お気に入りキャラ。感じとしては、この作品のアンナちゃんはキメ台詞もあって、一番いい女です（個人的感想）。ただ、ここで出してしまったために、シャーマンキングでは姉御っぷりが更に凶悪になってしまっているというか…。春雨と共に、作品を越えて語り継がれる名キャラクターだと思います（手塚治先生以来日本の漫画界を支えるキャラクターシステムですね）。
この他にも、作品の世界観を広める「箕浦組」のメンバーなど、活躍の場が無かったことが残念というか、なんとも。
パーティは弥勒菩薩（サチ）、千手観音、地蔵菩薩、狛犬（コマ）、イタコ（恐山アンナ）、馬頭観音と増えていきましたが。ラストカットを見る限りでは、聖観音、十一面観音、如意輪観音、准胝観音、勢至菩薩といった阿弥陀如来の関係者たちが次々と降臨することになっていたのではないかと思われます。
でもって、ここに阿修羅たち八部衆、ひいては二十八部衆がどう絡んだのか。マーラは？。興味は尽きません。
まあ、それはともかく。
宗教、それも日本人としては身近にある仏教を扱うと言うのは、ある意味難しい問題を多数秘めるということです。これが宗教臭くない一級のエンタテイメントに仕上がっているのは作者である武井宏之先生の力量を示しているのではないかと思います。
実際の所、現在、人気連載中のシャーマンキング読んでいて思うのは、仏ゾーンで描こうとしていたことを「よりわかりやすく」「よりジャンプらしく」「より身近に」人間の言葉でもって語り直しているんだな、と言うことです。仏教とか、キリスト教とか、宗教はいろいろありますが、そんなことには関係なく人間の営みは変わらず、人間に求められる物は同じだということを考えさせられます。
しかし、ヒーロー好きの私としては、シャーマンという名の人間の立場から描かれるシャーマンキングではなく、ヒーローとしての仏の視点で描かれる「仏ゾーン」を見たいのも真実。
いつの日か、再びサッちゃんの悟りへの旅が見られることを切に願う物です。
それまで、お寺で仏像でも見て、語られるべき物語に思いを馳せる…というのもいいかもしれません（笑）。
(2001.04.26)