紫堂恭子先生の作品は、ファンタジーやＳＦから現代物といろいろ有りますが。どの作品もエンタテイメント性を持ちながら、優しく、また、厳しい世界を表現しています。そして、そこで生きる人々の生き方は、すべからく、私たちに大切なことを教えてくれていると思います。
そんな作品の中でも、「生きていくこと」について私が非常に影響を受けた作品。それが、この、「グラン・ローヴァ物語」です。
さて。この物語は紫堂先生が「辺境警備」などの作品で描いているファンタジーワールドを舞台に紡がれて行きます。
タイトルにもなっている「グラン・ローヴァ」とは。
漢字で書くと「放浪の大賢者」となります。それは、世界中の賢者が集うと言われる「東の学舎」で与えられる最高の称号。権力を嫌い、ところを定めず、生涯を旅に生きる者。人の英知の極みを修めた賢者の長。
主人公のサイアムは、ひょんな事で知り合ったグラン・ローヴァと旅をするうちに、星々の力を凝縮した銀晶球をめぐるトラブルに巻き込まれてしまいます。人間、精霊、妖魔たちが銀晶球を巡って、それぞれの思惑から、様々な行動を見せますが…。
中心人物たるサイアムは、グラン・ローヴァや美少女の化身を持つ水蛇のイリューシアらと共に旅を続けます。
小悪党なサギ師だった彼は、その中で、出会う様々な人に影響を受けて行くわけです。
こう書くと、大賢者の教えを受けて成長する若者の話しの様な気がして、「ちょっと高尚過ぎるのでは？」と思う向きが多いでしょう。いや、それは、それで正解なのですが。
この時代のグラン・ローヴァは角川版１巻の裏表紙を見れば分かりますが「この物語の中に出て来る、多くの賢者と呼ばれる人々とは異なる、単なる、気楽なじいちゃん」です。そう思って読んでいたのですが、やはり、人々から称えられるのは伊達ではないようでして。
全４巻。読み終わった時には、周りの生き物に対する考えが、ちょっぴり変わりました。それは、自分なりに思っていた答えと違う解釈で、納得いく答えを見せてもらえたから。それが、完全な正解と思っている訳ではありませんし、いろいろな考え方があると思います。
それでも、この作品の中で、グラン・ローヴァに学んだことは、今を生きているうえで非常に大きいです。まあ、主人公のサイアムに比べたら、全然成長してないですけど。
ちょっと、思想的になってしまったなぁ。そういう気は全然有りません。
銀晶球を軸に世界の根幹をも揺るがさんとするストーリー。真剣に、悩み、生きている主要キャラクターたち。どちらをとっても「エンタテイメントとして面白く、良い作品」です。そもそも、説教くさい作品やつまらない作品をお薦めにする気はさらさら有りませんから。が…ちょっとシリアス度が高いかな。個人的には、もうちょっと明るければ、とも思いますが。あと、設定的にはトールキンの「指輪物語」に影響を受けているな…という所が有ります。指輪…影響力大きいなぁ。
ちなみに、この作品、角川書店の ASUKA COMICS DX ということで、世間一般には少女漫画のコミックスとなっています。「少女漫画はちょっと…」という方も、中には居られるかと思いますが、ファンタジーの傑作は少女漫画に多いこともあって、それだけで敬遠するのはもったいないことと思いますよ。第一、ヒロインのイリューシアちゃんは、紫堂先生が男性読者を意識して描かれたということですし。
(2001.06.23)
| 題名 | 著者 | 刊行シリーズ | 出版社 | 初版発行 | 備考 |
| グラン・ローヴァ物語１ | 紫堂恭子 | 潮出版社 | 1990年11月05日 | ||
| グラン・ローヴァ物語２ | 紫堂恭子 | 潮出版社 | 1991年12月10日 | ||
| グラン・ローヴァ物語３ | 紫堂恭子 | 潮出版社 | 1992年12月25日 | ||
| グラン・ローヴァ物語４ | 紫堂恭子 | 潮出版社 | 1993年12月01日 | ||
| ［決定版］グラン・ローヴァ物語１ | 紫堂恭子 | ASUKA COMICS DX | 角川書店 | 1998年05月01日 | 描き下ろし「月追い」収録 |
| ［決定版］グラン・ローヴァ物語２ | 紫堂恭子 | ASUKA COMICS DX | 角川書店 | 1998年07月01日 | 描き下ろし「つれて行って…」収録 |
| ［決定版］グラン・ローヴァ物語１ | 紫堂恭子 | ASUKA COMICS DX | 角川書店 | 1998年09月01日 | 描き下ろし「二千年の約束」収録 |
| ［決定版］グラン・ローヴァ物語４ | 紫堂恭子 | ASUKA COMICS DX | 角川書店 | 1998年11月01日 | 描き下ろし「死すべき運命の人間の子に」収録 |
イメージＣＤは、ポニーキャニオンから発売されていました。